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映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2013年アメリカ)

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現代のアメリカ映画界を代表するフィルムメイカー、コーエン兄弟ことジョエル&イーサン・コーエン。彼らの最新作『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』は1960年代初頭のNYグリニッジ・ヴィレッジのフォーク・シーンを舞台にした作品。


あらすじ:1960年代のニューヨーク、冬。若い世代のアートやカルチャーが花開いていたエリア、グリニッジビレッジのライブハウスでフォークソングを歌い続けるシンガー・ソングライターのルーウィン・デイヴィス(オスカー・アイザック)。熱心に音楽に取り組む彼だったが、なかなかレコードは売れない。それゆえに音楽で食べていくのを諦めようとする彼だが、何かと友人たちに手を差し伸べられ……。(以上シネマ・トゥデイより)


主人公ルーウィン・デイヴィスのモデルになったのはボブ・ディランが影響を受けた伝説のシンガー・ソングライター、デイヴ・ヴァン・ロンク。本作はヴァン・ロンクの回想録にインスパイアされた作品で、不遇をかこったフォーク歌手の悲哀をコーエン兄弟独特のペーソスとユーモアが入り混じった筆致で描いた快作です。

時はディラン登場前夜の1961年。NYグリニッチ・ヴィレッジではフォーク・シーンが活気づいており、コーヒーハウスと呼ばれるライブハウスで多くのフォーク歌手達が毎夜演奏していました。オスカー・アイザック演じる主人公ルーウィンはシンガー・ソングライターとして非凡な才能がありながら、とことん運に見放された男。かつてフォーク・デュオを組んでいた相方は自殺し、その後ソロとして活動しているもののレコードは売れず、友人知人の家を転々とする放浪生活を送っています。以前に家に泊めてもらった時に関係を持った事で妊娠してしまったジーンからは散々罵倒される始末。

ミュージシャンとしての信念を曲げたくないルーウィンは成功を求めてシカゴまで行きますが、そこでも彼の才能は理解されず。NYに戻った彼は音楽の道を諦めて船員になろうとするも船舶免許を紛失。結局フォーク歌手としての活動を再開した彼はコーヒーハウスで自分の出番の後に演奏しているボブ・ディランらしき若者に一瞬目を奪われます。


1961年にグリニッチ・ヴィレッジに現れたボブ・ディランは瞬く間に評判になり、翌年にデビュー・アルバム『Bob Dylan』を発表。その数年後にはフォークという枠を飛び越えてビートルズやストーンズと並ぶロック界の巨人となったのは周知の通り。しかしその影にはルーウィンのように成功を掴む事ができず消えていった数多くのフォーク歌手達が存在していた事実を本作は知らしめています。 生活の為に妥協する事を良しとせず、信念を曲げるくらいなら音楽をやる意味がないと考えるルーウィンが周囲から負け犬扱いされていたのはやるせない気分になりましたが、本物のアートは信念を貫き通せる人間にしか生み出せないのも確か。

アメリカン・ルーツ・ミュージックに造詣の深いコーエン兄弟だけあって、本作の音楽も非常に素晴らしい。音楽プロデューサーを務めたのはコーエン兄弟の2000年作『オー・ブラザー!』も手掛けたT・ボーン・バーネット。ルーウィンを演じたオスカー・アイザックの売れないフォーク歌手ぶりが見事にハマっていて、劇中では本職のミュージシャン顔負けの味わい深い歌声を聴かせています。ジーン役のキャリー・マリガンのルーウィンに対する痛烈な毒づきっぷり、それでいて決して彼を見捨てないところにもグッときました。また彼女の恋人のジム役のジャスティン・ティンバーレイクも出番は多くないながらしっかり存在感を示していましたし、過去にコーエン兄弟の作品でいくつもの印象に残る役柄を演じてきたジョン・グッドマンが本作でまたしても怪演を披露。
コーエン兄弟作品のファンは勿論、ディランが登場した1960年代初頭のNYの空気を感じたい方にもお勧めしたい一作。

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